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実験室の風景

実験を行う上でのテクニックや我が研究室の流儀などを公開し、それが訪れた方の参考になれば幸いです

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2024/11/21 (Thu)

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シリカゲルカラムクロマトグラフィ

2011/08/25 (Thu)

有機合成でカラムといったら大抵シリカゲルカラムクロマトグラフィです

精製目的で行うことが多いこの手法は非常に汎用的な精製方法です

ここではシリカゲルカラムクロマトグラフィを行うのに私の研究室における基本的な手順を公開します


フラッシュカラムの論文に関する記事を書きました→シリカゲルカラムクロマトグラフィ2

まず箇条書きで手順を示します
  1. TLCで目的化合物のRfが2.0±0.2程度になるように展開溶媒を調整する
  2. 粗生成物の量に対応するカラムを選択する
  3. カラムを立て脱脂綿を詰める
  4. シリカゲルを適量取り、展開溶媒で懸濁する
  5. 4をカラムに一気に注ぎ込む
  6. 圧力を掛けて展開溶媒を抜き、カラムを叩いてシリカゲルを詰める。これを繰り返す。
  7. 6へ粗生成物の展開溶媒溶液を静かにゆっくりと”積む”
  8. コックを開けて粗生成物をシリカに染み込ませる
  9. 常圧あるいは圧力を掛けて分画する
ということで9工程にまとめました
以下で各項目に関する補足をしていきます

  1. TLCで目的化合物のRfが2.0±0.2程度になるように展開溶媒を調整する
TLCはもちろんシリカです
展開溶媒を細かく、たとえばクロロホルム:メタノール=8.8:1.2のようにする必要は無く
せいぜい0.5刻みで調整します
また、いらないものが目的物の上下になるべく近接しないような溶媒が望ましいです
とはいえそれはこちらの都合でどうにかなるものではないので出来ない場合も多々あります
   
  1. 粗生成物の量に対応するカラムを選択する
これは感覚でやっています
ナスフラスコに入っている場合、底にカラムの口を当ててみて、直径が一回り小さいものを選択しています
  1. カラムを立て脱脂綿を詰める
脱脂綿は素手で触ってはいけません
カラムに脱脂綿を十分な長さのガラス棒で下まで押しやって、展開溶媒を脱脂綿が浸る程度に注ぎます
脱脂綿には空気が入っていて、これが溶出に影響するので、脱脂綿を溶媒中で叩いて空気を抜きます
詰めるときはすぼまっている部分に”キュッ”という感覚で押し込みます
ギチギチに詰めるとカラムが割れたり、溶出速度が著しく低下します
脱脂綿を押し込んだらガラス棒は抜かずに次にいきます
  1. シリカゲルを適量取り、展開溶媒で懸濁する
シリカゲルをカラムに詰めたとき、おおよそ20cmになるような量を取ります
あまり多いと時間が掛かります
私は大抵15~20cmになるように体積を計算して取ります
適当なのでメスシリンダーで取る必要はありません
シリカゲルを三角フラスコなどに取ったら、ここへ展開溶媒を加えて激しく撹拌します
シリカゲルの粉っぽさがなくなるまで溶媒を加えて下さい
なお、展開溶媒は通常1L程度用意しておくと楽です
  1. 4をカラムに一気に注ぎ込む
3のガラス棒が刺さったままのところへ、ガラス棒を伝わせるように、しかし一気に4を注ぎます
注いだらコックを全開にして、ガラス棒を左右に捻りながら徐々に抜きます
流出する展開溶媒は何かで受けておいて再利用します
残りのシリカも適当に懸濁してカラムに注いでしまいます
  1. 圧力を掛けて展開溶媒を抜き、カラムを叩いてシリカゲルを詰める。これを繰り返す。
5ではコックが開いているのでそのうち展開溶媒がなくなります
カラムでは充填剤(ここではシリカゲル)が展開溶媒に浸かっていない状態になることを”枯れる”といいます
枯れるとやり直しになるので絶対に枯らしてはいけません
さて、たとえば二連球や金魚の空気ポンプなどで圧力を掛けて展開溶媒を流出させていきます
あらかた減ってきましたらそれらを外して、液面がシリカ表面と重なるところまでさらに常圧で流出させます
どこまでやるか、ということですが
”湿っているが浸ってはいない”というのが目安です
もし枯らしてしまっても安心を
ここでなら展開溶媒を少し足して、ガラス棒で枯れている部分までをかき回すことで再生できます
”湿っているが浸っていはいない”ところまで溶媒を出したらコックを閉めます
次にカラムを耐圧チューブを二つ折にしたもので前後左右を下から上へ叩きます
すると溶媒が上に染み出すので、これをまた流出させます
これを繰り返していると、あるところでほとんど染み出さなくなりますので、これを確認してください
  1. 6へ粗生成物の展開溶媒溶液を静かにゆっくりと”積む”
シリカを詰めましたら、ここへ粗生成物を乗せていきます
展開溶媒で完全に溶解した粗生成物をパスツールなどで取り、カラム内壁を伝わらせて”積む”ように乗せます
このとき、なるべくシリカ表面に近いところで、静かにゆっくりとシリカ表面を勢いで掘らないように注意します
なお、一度始めたら毎回同じところから積んでください
いろいろな場所からやると収率に影響します
ところで、粗生成物が展開溶媒に溶けなかった場合、ジクロロメタンで飽和して行います
ジクロロメタンに溶けなかったら展開溶媒を変えるか、シリカカラムは諦めます
また、溶解する展開溶媒の量ですが、カラムに積むと2cm程度に収まるような量にします
あんまり薄いとダラダラしますし、濃いと分離が上手くいかない場合があります
  1. コックを開けて粗生成物をシリカに染み込ませる
積み終わったら”湿っているが浸っていない”ところまで流出させます
枯らさないように注意します
そうしましたら、同様に展開溶媒あるいはジクロロメタンで、容器に残っている粗生成物を洗って積みます
最初と同じ量の展開溶媒にすると薄くなるので適宜適量にします
せいぜい3回繰り返せばいいと思います
  1. 常圧あるいは圧力を掛けて分画する
粗生成物を積み終わったら、シリカ表面を掘らないように、またシリカが舞わないように静かにゆっくりと展開溶媒を積んでいきます
ある程度の高さまで積めたら、あまり慎重にならなくても平気です
あとは、常圧なり圧力を掛けるなりして分画していきます
さて、分画する量ですが、1カラムボリュームの1/10くらいを取るといいと思います
つまり、100ccのシリカを使ったのなら、分画するのは10ccずつ、ということです
なお、あまりに溶出速度を早くするとテーリングする可能性が高くなり、分離能が低下します
感覚ですが1秒に1滴くらいがいいと思います


以上が普段行っているカラム精製の手順です
海砂やろ紙を使う例もありますし
研究室の流儀もありますが
私の例が参考になれば幸いです


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